• 3D

闘病中の子どもたちに”わくわく”を届ける仮想空間

Overview

病気や入院によって、社会とのつながりを持ちにくくなってしまった子どもたちに、“わくわく”を届けたい。そんな想いから生まれたのが、「WonderMeta(ワンダーメタ)プロジェクト」です。アート作品を通して「自分を表現する力」と「他者とつながる力」を手にするとともに、病気への理解を自らの手で広めてゆくことで自己肯定感を高める機会を提供します。スタジオてくてくはチームに伴走し、企画、仮想空間デザイン・構築、オブジェクト制作に加え、リファレンスの提示、会議でのディスカッション、アイデアの言語化など幅広くご支援しました。プロジェクトの発起人である小児科医の川口幸穂氏と株式会社ビフロスト・本間将一氏にお話を伺いました。

Index

  • ご依頼経緯
  • 制作プロセス
  • 成果
  • 展開

ご依頼経緯

WonderMetaプロジェクトが立ち上がった背景を伺えますか?

プロジェクト発起人・小児科医・川口氏(以下敬称略)
わたしたちは「新しい技術を使って闘病中の子どもたちにわくわくを」をモットーに、小児科医、教育学部准教授、長期入院児とその家族を支援するNPO法人らによって結成されたチームです。

チームWonderMeta:川口 幸穂氏(小児科医師 / 株式会社happipon 代表)、小西 行彦氏(香川大学教育学部准教授 / 小児科専門医、小児神経専門医、子どものこころ専門医)、吉田 ゆかり氏(NPO法人 未来ISSEY 代表理事)、公式アンバサダー 岸谷 蘭丸氏(MMHB株式会社 代表)、メタバースプロデューサー:株式会社ビフロスト 代表 本間 将一氏を中心に活動。

川口
闘病中の子どもたちの社会的孤立、教育機会の損失、心理的負担に対し、彼らが楽しく創造し、病院やご自宅など場所を問わず、社会や人とのつながりを感じられるよう、新しい技術を使って”わくわく”できる体験を実現していくことをめざしています。

活動を具現化した「WonderMeta」は、病気や環境によって社会から離れざるを得ない子どもたちが、“社会の一員”として輝ける場です。仮想空間に子どもたちのアート作品が展示され、子どもたちはもちろん、どなたでもアバターを使って来訪でき、作品を鑑賞したり、コメントを残したりできます。

子どもたちはアート作品を通して「自分を表現する力」と「他者とつながる力」を育むことができます。また、多くの方に作品を鑑賞いただきながら、自ら「社会を動かす発信者」になることができます。

長期入院や慢性疾患を抱える子どもたちの日常は、医療現場以外ではあまり知られていないという課題に対し、「こういった状況にある子どもたちがいる」という気づきを、自らが広げていくことは、支援される立場を超える自信につながります。

医療・教育・アートの垣根を越えた新しい社会的支援のモデルとして、このプロジェクトを通して、社会が子どもたちの存在や可能性をより自然に受け止められるようになることを願っています。

WonderMeta公式サイト:https://wondermeta.org

大きな反響があったとお聞きしています。

川口 
現時点(2025年10月)で約200名の方がWonderMetaに訪れてくれました。テレビや新聞など、さまざまなメディアにもご紹介いただいています。

仮想空間にとどまらない活動として、リアル展示会にも挑戦したのですが、約1,000名の方々にご来場いただきました。そこで販売した子どもたちのアート作品を起用したグッズも、たいへん好評でした。

メディア連携やリアル展示、子どもたちのアート作品を起用したグッズ展開など、バーチャルにとどまらない広がりを見せている。

メタバースプロデューサー・ビフロスト 代表・本間将一氏(以下敬称略)
社会実装が容易でないVR技術を使った先進的な取り組みとして、「JAPAN Metaverse Awards 2025のベストプロトタイプ賞」に「パブロス美術」がノミネートされました。受賞こそ逃しましたが、プロジェクトの社会的意義に加えて技術面でも高く評価いただきました。

スタジオてくてくにご依頼いただいた経緯を教えてください。

本間
自社の技術を社会貢献につなげるため、教育機関や行政に営業を重ねていました。メタバース上で美術館を立ち上げる企画を提案したところ、川口先生から「入院中の子どもたちにも活用できるのでは」とお声がけいただいたのがきかっけでした。非常に意義のあるプロジェクトで、ぜひ貢献したいと思いました。わたしたちの技術だけでは実装しきれないと考え、豊富な知見や柔軟な体制をお持ちのスタジオてくてくさんとタッグを組むことになりました。

スタジオてくてく代表の桑田さんとは長年の友人なので、障害や難病を抱えている方が「好きなことで社会につながる機会をつくる就労継続支援B型事業所」をコンセプトに活動していることは知っていましたが、声をかけた時点では意識せず、純粋にクリエイティブ力に期待しました。

すぐにゲーム業界で実制作のご経験をお持ちのちゃんみさんと、まろぴさんのダブルクリエイティブディレクター体制を敷き、2つの事業所をまたぐ複数名のクリエイターをアサインしてくれました。顔あわせで少し話しただけで、確かな知識と技術をお持ちであることが伝わり、とても心強かったです。

たとえば誰でも訪れる仮想空間に向け、ハイスペックでないPCでもスムーズに挙動できるようにするには、ポリゴン数を抑えて構築する必要があるのですが、そうした制約にも理解や対処法をお持ちで、ポリゴン数が少なくてもクオリティや没入感を損なう心配がない頼もしさを感じました。

制作プロセス

制作プロセスで印象に残っていることをお伺いできますか。

川口
NPO法人未来ISSEYの香川大学の学生ボランティアチーム「グッドブラザー」の土井さんがリーダーとなり、小児がんの子どもたちを支援したい高校生数名とアイデアを出し合って3Dモデルのデザインを行いました。

大きな方向性として、アートギャラリーだけでなく、「動物園と水族館が混在する空間」というものに決まり、次回MTGから具体的なアイデア出しをしてまとめていったのですが、学生ボランティアにとって3Dモデル制作は初めての挑戦でした。スタジオてくてくさんが何度も打ち合わせに同席してくださり、アイデアを丁寧に汲み取りながら伴走してくださったのが印象的でした。

本間
アートギャラリーの基盤である動物園と水族館そのものが、病床の子どもたちの遊び場になってほしいとの想いがありました。アート作品を飾る一般的なギャラリーを構築するよりも難易度が高く、開発スケジュールもかなりタイトでした。

それに対しスタジオてくてくさんが全体の品質を引き上げてくれました。しっかり企画書を読み込んで臨んでくれ、年齢や所属が異なる多様なチームの関係性を丁寧に補完してくれました。

実は、かなり負荷が大きい形で3Dモデル制作を依頼した部分もあります。それでも柔軟に応えてくださり、本当に助けられました。

また、3DCGの世界ではリファレンス(資料)を集めることがとても大事です。動物園や水族館を視察し、そこにいる動物や魚などをリファレンスをもとに細部まで再現してくれ感動しました。魚1匹をとっても、形やテクスチャ、光の反射の仕方、ノーマルマップによる反射角度や金属感まで、複数のマップを描き分けて丁寧に仕上げてくれたんです。動物の足のサイズなども、原寸をもとにリアルに追求。イラストレーターさんが所属している強みが発揮され、緻密な表現で空間全体のリアリティを支えてくれました。

アバターを使って、子どもたちが遊ぶこともできる空間。光のまわりなどリアルに追求しながらも、浮遊するクラゲなど現実を超えた異世界を描くことでわくわくを演出した。

本間
また、依頼時には就労継続支援B型事業所であることは意識しなかったとお話しましたが、推進するうえで気づきをいただいたのも印象的です。バーチャル空間でポリゴン数を抑えるために、同じテクスチャーの絵を繰り返しつかう手法があるのですが「穴や斑点が集まった模様に恐怖を感じる集合体恐怖症(トライポフォビア)の子どもへの配慮」を、スタジオてくてくさんから指摘いただいたときは、ハッとしました。自分だけでは持ち得ない視点によって、より多くの子どもたちが安心してつながることのできる空間が実現できたと感じています。

バーチャル空間でポリゴン数を抑えるために、同じテクスチャーの絵を繰り返しつかうアプローチが一般的だが、穴や斑点が集まった模様に恐怖を感じる集合体恐怖症(トライポフォビア)の子どもにも寄り添う形で調整した。

本間
学生さんはイメージの言語化には慣れていない印象があったのですが、みなさん思い入れが強く、そのギャップが実装の難易度を高めていました。それでもスタジオてくてくさんが的確にリードしてくれ、最初は口数の少なかった学生さんも明確なイメージで語れるようになるなど、とても良いチームになりました。

川口
そうですね。サポートのおかげで、チーム全体が「子どもたちが心から楽しめる場をつくる」という共通の方向性を持って取り組むことができたと感じています。

本間氏やNPO法人 未来ISSEYさんが組織する学生ボランティアのみなさまと定期的にディスカッション。否定されることを恐れず、自由に発言できる心理的安全性の高い場を意識しながら、一人ひとりの想いに寄り添いながら言語化につなげた。

成果

完成した空間をご覧になられて、どのように感じましたか?

川口
想像を超えた仕上がりで、本当に嬉しかったです。子どもたちがわくわくしながら自由に楽しめる、美しく温かみのある世界。展示空間としての完成度も高く、子どもたちのアート作品を鑑賞するだけでなく、歩いて探検する体験そのものが楽しい構成で、プロフェッショナルの技術と学生たちの発想が融合した想像を大きく超えるクオリティに感動しました。

心身の健康が幸せを創出すると考えているので、さまざまな思いを抱えている子どもたちに学びの喜びを感じてもらえるような取り組みを大切にしたいという想いを新たにしました。

病床の子どもたちの反応はいかがでしたか?

川口
「自分の絵が飾ってあるのを見てうれしかった」「誰がどんなコメントしてるのかな?って楽しみ」といった声をもらえました。メタバース空間に自分の作品が展示されていることへの喜びや、他の参加者からのコメントを心待ちにしている様子は期待していた反応であり、プロジェクトの手応えを感じることができました。

予想外だったのは、保護者の方々も想像以上に喜んでくださったこと。「病気と向き合うなかで感じていることなど、本人の言葉で聞くことができ、初めて知ることもあった」というお声をいただき、この活動が親子のコミュニケーションのきっかけにもなったことを知りました。「絵を描くことで、自分は輝けると思ってほしい」というご家族の願いからは、創作を通じて子どもたちが自信を持ち、自分の可能性を信じられるようになってほしいという深い思いも伝わってきました。

当初は子どもたちに“わくわく“を届けることを目標にしていましたが、ご家族の想いにも触れることができ、活動の意義がより深いものであることを実感しています。

子どもたちにとって社会とつながる場。自分の作品が空間内に展示され、多くの方からコメントが寄せられた。一方、「病気を悪者ととらえていない作品」が見られたなど、大人たちが「闘病中の子どもたちの気持ち」に触れる機会も提供した。

展開

今回のプロジェクトが、おふたりの今後のご活動に影響する部分があれば教えていただけますか?

川口
今回の取り組みを通じて、子どもたちの作品が展示されるだけでなく、それが新たなアイテムに生まれ変わったとき、もっと大きな喜びが生まれる瞬間を目の当たりにしました。子どもたちの想いが詰まったアイテムを手にして、勇気をもらったという声もいただきました。一枚の絵から始まったものが、さまざまな形に広がりながら社会に還元されていく。そんな温かい循環をもっと生み出していけたらと願っています。

今回の技術領域にとどまらず、スタジオてくてくさんと一緒に新たな何かを創作していくことができれば、きっともっと意義深い取り組みになると感じています。子どもたちの可能性を広げ、社会にもポジティブな影響を与えていけるような、そんな協働を実現できたら嬉しいです。

本間 
引き続き教育の質を向上させる取り組みを模索したいと考えています。子どもたちに一次情報に触れる機会をもっと届けたいとの想いも芽生えました。たとえば紛争地域について見聞きできる情報は偏ったものも多いかも知れません。それに対し、自動翻訳つきの仮想空間で世界中の子どもたちとリアルに国際交流することができれば、未来にとても良い効果を挙げられるのではないかと考えているんです。

やりたいことがたくさんあるなか、仮想空間は技術的な難しさもあり、成功実績のある企業は限られています。だからこそ本プロジェクトの成果はとても嬉しいですし、今後もスタジオてくてくさんとさまざまなチャレンジがしたい。とても頼もしいアドバイザーに出会えた喜びを感じています。

お忙しい中、お話をお聞かせいただきありがとうございました!

編集後記

医療・教育・アートの垣根を越えた、社会的支援の新しいモデルづくりに関わることができて光栄でした。子ども向けだけれど、“子どもだまし“ではない世界観を追求しつつ、本物の博物館や美術館ではできない夢のある空間にしたくて遊び心も加味したのですが、結果、子どもだけでなくご家族も楽しめる特別な空間を実装することができたと感じています。なによりチームのみなさまとの対話に陪席でき、企画からお手伝いできたことが本当に刺激的でした。今回の経験を踏まえ、より多くの子どもたちに夢と希望を届けるプロジェクトのお手伝いにつなげられたらと考えています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

クリエイティブディレクター ちゃんみ、まろぴ